売れる力とは? 2025.04.21

あるYouTuberの指南書から

 

 

競合から客を奪う戦略

 

 

あるYouTuberが動画公開を始める際の事前準備、動画投稿開始から収益化、その後の専業化に至るまでの指南書を公開していました。何となく気になって読んでみたら、色々と考えさせられる内容でした。面白かった点を共有します。

 

YouTubeというプラットフォームでは「収益化剥奪」という恐怖の「沙汰」がしばしば発生するようです。「繰り返しの多いコンテンツ」や「他サイトの内容を読み上げただけのもの」「説明・内容に乏しい」「テンプレートによる大量生産」「プログラム生成コンテンツ」などの疑いがあると即時「収益化剥奪」の対応が取られるそうです。

 

相手はAIアルゴリズムですから、融通がききません。弁明動画を作成して合理的な説明で「容疑」を晴らさない限りはYouTubeからの収益は停止されます。彼の場合は幸い「収益復活」を遂げたようでしたが、YouTubeのアルゴリズムは予告なく頻繁に変更されます。いつ何時また「収益剥奪」の連絡が来るかもしれません。「生殺与奪の権利」は100%YouTube側にあることは、今後も常に変わらないのです。

 

また、コンテンツが増えれば増えるほど、フォロワーや再生数が増えれば増えるほど、その「沙汰」は恐ろしいのです。失うものが多くなるからです。YouTubeのアルゴリズムの判断は「絶対」です。最近のトランプ大統領みたいな存在です。そういう意味では収益化を果たし、たくさん稼げるYouTuberほどAIアルゴリズムを恐れなければならない訳です。

 

そして、彼は5つの伸びない原則として、

 

①いろんなジャンルに手を出す→何屋さんなのか分からなくなる(専門性が不明)

 

②自分のことを底辺YouTuberと自称する→自虐的な態度では誰も見てくれません(あたりまえですが)

 

③無編集動画をアップ→コンテンツの質の水準が高くなっている(見せる技術は日進月歩です)

 

④視聴回数を買う、登録者を買う→登録者の割に再生回数が増えないのでアルゴリズムにすぐバレる(アルゴリズムの学習速度はどんどん速くなっています)

 

⑤動画投稿を辞める→積み上げてきたアルゴリズムの優遇(オススメ表示)がなくなる

 

を挙げていました。他の業界にも通じる点もありますが、AIに監視され続けて行う厳しいラットレースとも言えます。多くのフォロワーを獲得、再生回数も伸び晴れて「収益化」を果たしても、それが継続できるかは常に「不断の努力」を要する激烈な競争の世界だからです。

 

彼はその「不断の努力」として、綿密なる「競合から客を奪う戦略」を挙げています。これがないのにYouTubeでの動画投稿を始めてしまう人たちは、かなりの確率で投稿が止まってしまうのだそうです。少しばかりの「ラッキーヒット」があったとしても「いきあたりばったり」の人は、そのうち撤退を余儀なくされるのです。

 

「動画のネタや編集センスが優れていても、自分と同じカテゴリーの投稿者が現れても、ほとんどの人は消えていってくれるので怖くない」とまで断言していました。なんともリアルな話です。

 

 

 

ベルカーブとロングテール

 

 

このYouTuberの主張は統計的なふたつの概念で説明できます。ベルカーブとロングテールと呼ばれるもので、日本語にするとそれぞれ正規分布・ベキ分布とも言われるものです。何れも自然界の代表的なばらつきの形です。

 

以下のような図をご覧になられたことがあると思います。簡単に説明すると、ベルカーブ(正規分布)は多くの人数の学力や身長などを並べていくと出来上がる分布。学生時代の偏差値などでお馴染みかと思います。YouTuberの世界も最初の黎明期はみんなが試行錯誤中のどんぐりの背比べで、ベルカーブ(正規分布)のような肌感覚だったようです。

 

↑ベルカーブ(正規分布)、山の高さ(分布数)は上下、頂点の位置(平均値)は左右に動きます

 

 

↑ロングテール(ベキ分布)、平均値(すべての値を平均)と中央値(すべての値の真ん中)の違いに注目

 

 

いっぽうロングテール(ベキ分布)は世界のWebサイトのアクセス数や個人資産総額などを並べていくと出来上がる分布です。ベルカーブは平均を中心にばらつきの頻度が決まっていますが、ベキ分布の世界においてあたりまえのほとんどのことは「ショートヘッド」と呼ばれる左側に集まるいっぽうで、恐竜の尻尾のようなテールがどこまでも右に延びていって、その延びきった「ロングテール」ではとてつもなく極端なことが起こっている訳です。

 

成人の身長(正規分布)は大小の差で桁が違ってくるようなことはありませんが、Webサイトのアクセス数や個人資産総額(ベキ分布)はピンキリであり何桁もの違いがある訳です。世界では市場が広域化することで、その差が拡がる速度は増しています。

 

日本でもYouTuberがどんどん増え、市場規模が拡大するにつれて、ベキ分布化していきロングテールが伸びていきました。あるYouTuberが身を置くインターネットはまさにこの世界になります。

 

最近では、地方選挙なのに投票権のない全国各地で選挙運動したり、地元エリア限定で活動している工務店がWEB広告したりと、インターネットにより「地元」という括りにおいてもネット上では妙に全国区化(グローバル化)してしまっています。

 

本来、インターネットは大きな広域市場により有利にはたらくしくみで、地元工務店の商売には不向きであると言われてきました。にもかかわらず「インターネット常に情報がないものは、もはや存在しないに等しい」といった同調圧力が強まっています。

 

 

 

我々の業界ではどうなのか?

 

 

ベルカーブ(正規分布)主体の世の中がロングテール(ベキ分布)的に変化してきました。「時間と手間をかけずに大きく稼ぐ」手法が増えてきたことが理由のひとつです。結果として収入や資産格差の拡大が世界中で進行してきました。

 

工務店業界でも「サクッと成功を目指す」様々な誘惑も多く、他業界を横目に経営者の中で焦りが蔓延しています。どこまで合理化しても、工務店は一品生産の世界だからです。

 

↑戦後日本における「総中流社会」はベルカーブ的なイメージでした

 

 

↑近代世界における「格差拡大社会」はロングテール化が進んだ結果と言われています

 

 

全国の様々な工務店・ビルダーの方とお会いしていると、各地で大小の規模を問わず「同質化」を招いているのを実感します。インターネットのお陰で全国津々浦々、同じ情報源で経営のヒントを得ているので当然です。また、日本の場合は制度・規制が全国一律のものが多いのもその一因でしょう。

 

「同質化」は、工務店にとって自らをショートヘッドに追いやってしまう危険性があります。顧客の購買力がベルカーブ型からロングテール型に移行している中で、全国的に単純に「同質化」することは大手にとっては有利に働いたとしても、個性が売りである小さな経営主体にとって不利に働くからです。

 

マスメディアやネットの情報ばかりを気にして「皆がやっているから乗り遅れまい」と「同質化」に向けた対策を重ねていく流れは、ロングテール(ベキ分布)化を加速するものでしょう。問題はベキ分布の中において「いつのまにかショートヘッド側の端に属してしまわないか」ということです。

 

 

 

既にベキ分布の世界で戦うあるYouTuberのように「理想とする競合の顧客を奪うとしたら」という気概と戦略を持つことも、我々工務店業界は忘れてはならないのです。

 

 

 

 

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