習慣を変える困難さはどこから来るのか?
「個人の生まれ持つ資質」と「会社で求められる役割」が、ドンピシャであることはまずありません。そういう意味では社長ご自身も同じでしょう。人間である以上はこういうことに例外はないはずですが「社長だけ例外」扱いになっている会社は多く見かけます。
それは一般に「人それぞれが持つ資質」をすぐさま変容させることが、大変難しいことの裏返しです。難しいということが分かっていながらも、社長は往々にして社員に速やかな変容を求めます。しかし、難しさ故に社長ご本人となればついつい「治外法権」となってしまうのです。そういう会社の社員は、社長の「生まれ持つ資質」に適合できるよう自ら変容しなくてはなりません。
それはさておき、社長の悩みも近年深まっています。従業員の働き方、特に休日出勤や残業などの時間管理が厳密になっているからです。古き良き時代では、物価上昇もひどかったのですが給与水準も毎年上がっていくのが普通でした。インフレでお金の価値が下がっていく分、給料の金額は上がっていたのです。最近よく言われるようになった「実質賃金」を維持するためです。
そういう空気感の中で休日出勤や残業、持ち帰り残業などで「仕事を早く覚える」という感覚もひと昔前には普通でした。今の時代から見れば「モーレツ社員」が標準であった訳です。経営者もその「モーレツさ」を持ってヤル気・勤勉さと捉えていたのです。「勤勉手当」なる名称の手当さえも存在したぐらいですから。
「個人の生まれ持つ資質」を「会社で求められる役割」に適応させるためには、それなりに何らかの「変化」をもたらす取り組みが必要になるはずです。しかし、以前のように時間という物量を充てにくくなっている環境では「習慣」を変える、さらなる工夫を要します。「働きかた改革」というと耳ざわりはいいですが、個人に求められるものは重くなっているのです。
Amazonで「習慣」というワードで書籍を探すと山のように表示されます。クリックしていくと古典から新刊まで果てしなく続きます。現代人はみんな「習慣」を変える必然性に追われ続けているからなのでしょう。
↑「習慣」は、どうやら本が売れるワードのようです
持って生まれたものを変える「エピジェネティクス」
ここで「知能は遺伝か経験か?」という問いをめぐる心理学研究の流れと、最新の科学的理解を解説します。
20世紀初頭の心理学では、人間の行動や知能は経験によって形成されると考えられていたそうです。しかし、Tryon(1934)のラットを用いた研究が遺伝の影響を明らかにしました。彼は「迷路の通り抜け」が得意なラット同士、不得意なラット同士を何世代も続けて交配させ「迷路の通り抜け」が得意な家系と不得意な家系での学習成績の違いが代を重ねるごとに顕著になることを示しました。さらに、得意な家系の子を不得意な親に、またその逆に育てさせる「交差里親実験」でも、生育環境より遺伝の影響が強いことが示されました。
しかし、Cooper & Zubek(1958)の研究では、環境が遺伝の影響を修正する可能性が示されました。迷路が不得意な家系のラットでも様々な刺激の多い「装飾された環境」で育てると、得意な家系に近い成績を収めるようになったのです。これは、環境が遺伝の影響を「上書き」できることを示唆しています。(下図ご参照ください↓)
この現象の背後には「エピジェネティクス」があります。エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列(設計図)を変えずに外的要因が遺伝子の発現(タンパク質合成)を調節する仕組みです。仮に遺伝的に劣る遺伝子を受け継いでいたとしても、生後の何らかの「きっかけ」により生来の性質を改変する「スイッチ」が入るというものです。概念的な発見は1世紀近く遡りますが、遺伝子レベルでの発現メカニズムが解明されたのは研究技術が飛躍的に発達した1980年代以降です。
実験での刺激の多い環境はラットの脳内でこのメカニズムを働かせ、遺伝的に不利な特性を変化させたと考えられます。知能や行動は、遺伝によって規定されるだけでなく環境との相互作用、特にエピジェネティクスの働きによって大きく変わる可能性があることが最新の実験で科学的に裏付けられています。
エピジェネティクスを発現させる要素や手段は確かにあるということです。これには「持って生まれたもの」としてあきらめることなく、希望が持てます。できれば効率よくエピジェネティクスを発現させる「答え」が欲しいものです。
↑ランダムに交配すると次第に極端な性質の個体は減り、中間的な性質の個体が増える傾向がある(ラットの迷路の学習に関する選択交配実験のイメージ)
↑極端な性質の個体同士ばかりで交配すると次第に極端な性質の個体が増加、中間的な性質の個体が減る傾向がある(ラットの迷路の学習に関する選択交配実験のイメージ)
↑装飾的な環境で育ったラットは迷路学習の不得意さを克服しているのが分かる(異なる環境で育った、迷路が得意な家系・不得意な家系のラットの成績比較)
わかっちゃいるけど、なかなかできない
人間「みんなわかっちゃいるけど、なかなかできない」のですが、それはどこかで当の本人が「無理かな」と思ってしまっていることも一因です。生き物の脳は可能な限り過大な負荷を避けてエネルギー消費を抑えるようになっていますので、当然の事です。余程のモチベーションがない限り、やりたくないのです。ましてや、必要性や勝算を感じていない場合はなおのことです。
大人は根拠なく「やればできる!」と言います。みんな子供の頃からよく言われた覚えがあります。言われた子供はだいたい「そんなことあるかい!」と思っていたはずです。それを言っている大人が、ぜんぜん自己改革をしているようには見えなかったからです。
しかし、最近のエピジェネティクスの研究成果を見ると、それはまんざら「ウソ」でもなかったとも言えます。ひょっとすると私たちが考えるよりずっと、自己改変の余地はあるのかもしれません。どういう課題に対して「どのようにすれば、どうなる」という原因と結果の関係がまだまだ分かっていないだけで。
人の脳は、反復して体験することで新しい神経回路が出来上がるそうです。また、この機能に年齢はそれほど影響はないとも言われています。そのためには私たちは「習慣」を変えなくてはいけません。より良い結果を生みそうな動作を「習慣化」して脳に定着させるしかありません。
現代のような「時短の時代」に根気を要するものですが、うまくいけば大きな成果を生み出す有効な投資になります。手っ取り早く「エピジェネティクス」を起こす方法がまだ分かっていない以上、当面はこの方法を取らざるを得ないようです。
企業経営の中で様々な「個人の生まれ持つ資質」を持つスタッフに「会社で求められる役割」を果たしてもらいたい。そのためには「エピジェネティクス」の発現因子をいち早く見つけられたら… 弊社(株)家づくりの玉手箱 では、社長といっしょにこういった課題にも挑戦しています。
より良い結果を生むために、社長の会社では「習慣を変える工夫」どうされていますか?まさか、社長だけは「例外」にされていないでしょうね。