売れる力とは? 2023.12.11

スーパー「まるおか」買い物録

 

 

「まるおか」さんで買い物

 

 

群馬県高崎市に「まるおか」というスーパーがあります。単独店舗の個人店ですが「美味いものだけを売るお店」として有名なお店です。

 

社長の丸岡 守さんは1944年生まれ。1948年に高崎市輪町(現・箕郷町)でお父さんが八百屋「まるおか商店」を創業。大学卒業後、家業を継ぐ。大量生産・大量消費・大量廃棄という現代社会のあり方に疑問を抱き改装を繰り返しながら、「医食同源」をモットーに人々の健康に貢献できる店づくりを進めます。

 

2015年、現在の場所に木造の新店舗をオープン。自分たちの舌で感じた「おいしい」ものだけを集めた独特の品揃えはお客を驚かせ、おいしさで魅了し続けています。そういうお店大好きなので、買い物に行ってきました。

 

お昼前に到着しましたので、まずは腹ごしらえをすることに。そうしたら、丸岡社長がテキパキと品出しをされていました。「ひき肉を見ればその店の良し悪しが分かる」「ハンバーグが美味しくない店は他も期待できない」と著書に書かれていたので、まずは「まるおか特製ハンバーグ弁当」を買って食べることにしました。丸岡社長の「ハンバーグ理論」については個人的に同感であったからです。

 

 

↑お店の入り口には、このような「宣言文」が貼り出してあります。

 

↑丸岡社長は「ひき肉を見ればその店の良し悪しが分かる」と言われます

 

↑ということで「まるおか特製ハンバーグ弁当」を購入(即、駐車場で食べました)

 

↑たいらげてからラベルを見ると、確かに添加物が入っていません(美味しかったですもん)

 

 

お腹も良くなったところで改めてお店に戻り、品定めを始めました。そしたら、店内に丸岡社長の姿が見えます。あちらこちらでお客さんの質問に答えています。どうやら1日の大半をこうして店頭で過ごされているようです。筋金入りの「本物」です。

 

置いてある商品のPOPを読んだりスタッフの方に説明を聞いたりしていると、かれこれ1時間近くもお店にいました。ポン酢を買おうと棚に近づいたら、丸岡社長、まだいらっしゃいました。見たことのないパッケージの美味しそうなポン酢がたくさん並んでいます。思い切って丸岡社長に尋ねてみました。

 

 

吉岡:「柑橘の香りが良くてお醤油の風味がしっかりしているポン酢が好きなのですが、どれが美味しいですか?」

 

丸岡社長は、それまでやっていた作業の手を止めて、すすすっと近寄ってきて瓶を手に取りました。秒速の反応です。

 

丸岡社長:「それだったら、これ。島根のお醤油屋さんが作ってるポン酢」別のを指さしながら「こっちのも美味しいけど、柑橘が強めかな」

 

吉岡:「あ。ありがとうございます。それにします!」

 

丸岡社長:「お醤油の風味がよくて美味しいですよ!」

 

ダメ押しのひと言が、自然な笑顔でスッと発せられます。疑いようのない対応です。きっと、自分の仕事に嘘がないからです。

 

 

↑丸岡 守 社長(このまんまの感じでお店にいらっしゃいました)

 

↑お店に入ると社長直筆の POPが迎えてくれます(手書きの感じが昔の市場の八百屋さんみたいです)

 

↑鹿児島の特産「黒豚みそ」は村山製油さんのものが並んでいました(ふむふむ)

 

↑まるで社長と会話しているような情報量です(よく見てください。ひとつひとつが買い物客に迫ってきます)

 

↑冷蔵ケースの中にもガンガン貼ってあります(棚の奥から社長が飛び出してくるが如くです)

 

↑えらく冷蔵ケースに顔を近づけている人が多い理由が分かりました(ついつい見入ってしまいます)

 

↑お試しで買ってすぐに飲んだ牛乳とPOP(うまい!大きいのを買えばよかった。高いですが。)

 

 

 

「小」が「大」に勝つ?

 

 

スーパー「まるおか」は今年、年商13億円を達成されたそうです。通販も始められたようですが実店舗1店舗でです。客単価がスーパー業界平均の2倍近いとも言われています。(そういう私も1万円近く買ってしまいました)地方の小規模店舗としては素晴らしい業績です。参考にスーパーマーケットの統計資料を紹介しておきます。 印がスーパーまるおかさんの数字です。

 

 

↑店舗売場面積(2022年調査)

 

 

↑売場1m2あたり年間売上高(2022年調査)

 

 

↑売場面積別の年間売上高(2017年調査)

 

 

↑平均客単価(平日+土日祝)(2022年調査)

 

 

↑売場面積別の平均客単価(2017年調査)

 

 

以上、統計・データでみるスーパーマーケット より

 

 

丸岡社長は「おいしいものだけを売る」という著書も出されていますし、多くの取材を受けておられますが、考え方が一貫しています。何をしたいのか?そのために何をすべきか?を心得ているからです。買い物をしているうちに、その「世界観」がお店の隅々まで行き渡っているのを感じました。

 

一部では「小」が「大」に勝つといった形容で紹介されている記事もありましたが、勝つ負けるの話ではありません。お客様に何を提供するのか?という生き方の問題です。繁盛・成功はその結果の話です。

 

 

家業であった八百屋さんで商いを学び始めた頃、丸岡社長はお父さんから「良いものは仕入れるな」と言われたそうです。「本当に良いものは価格も高い。高いものを仕入れても、誰も買ってはくれないぞ」と言って丸岡社長を市場に連れて行ってくれたそうです。そして「商品に惚れ込んでしまうと、なんとしてもその商品を手に入れたくて仕方がなくなる。その結果、収支のバランスが取れなくなり、商売として損をする」「安いものが圧倒的に売れる」と教えられました。

 

それでも「自分が良いと思ったものを売ることができない商売に、いったい何の意味があるのか?」その疑問を解くために生涯をかけ真っ向から挑み続けてこられたのです。しかし、惚れ抜いた逸品の価値を伝えることができず、悔しさと無力感に襲われる日々が長く続いたそうです。一朝一夕でここまで来た訳ではないのです。

 

丸岡社長によると「良いものを置けば売れる訳ではない」と断言されます。商売はそれゆえに難しいのです。では、何をもって良いものが売れるのか?というと「信用」だと言われます。働く「人」と「店」に対する信用です。「1品1品に真摯に向かう姿勢の積み重ねこそが信用を育む。逆に、たった一つでも気の緩んだ商品があれば、すべての信用を失います。」とも。なんとも厳しいですが、本質です。顧客から見ればあたりまえのことです。

 

スーパー「まるおか」では新しい商品を入れるときは目隠しして味見テストをするそうです。そうやって出所やパッケージを隠したら、ナショナルブランドの大量生産品は全部「まずい」判定を受け、いつのまにかお店の棚から姿を消してしまったのだそうです。そういった経験から「からだによい食品」と「本当においしい食品」は一致すると断言されます。

 

 

↑右手前がスーパー「まるおか」左手奥にはイオンモールが見えます

 

↑このような立地と規模感です

 

 

 

まさに「小なれど一流」

 

 

スーパー「まるおか」は様々な紆余曲折の末、2015年にイオンモールの傍に移転しました。この立地は偶然が重なった結果だったそうですが、当時はそのような「小判ザメ商法」はうまくいかないだろうと周囲の人からも言われていました。普通のスーパーなら、とてもじゃないけど継続困難であったでしょう。

 

丸岡社長は最初から心を決めていました。イオンにはないものを扱い、イオンにはできない接客を行う。苦しくてもそのためになすべき事をやる。それは、このようなものでした。

 

おいしさにこだわること。それは旬にこだわるということであり、お客様の健康に繋がります。そのためには、捨てないといけないものがありました。「もっと長く日持ちさせたい」「もっと大量に売りたい」「もっと儲けたい」という欲求です。これは小売業としては容易ならざる道です。

 

丸岡社長は1店舗だからできる戦略を徹底することにしました。良いものを買っていただくにはどうすればいいか?多くの苦難の中から、売ることばかりを考えるよりも良さを伝えることが大切なのだと気付かれました。その精神がお店の隅々まで、手描きのPOPに宿っていました。

 

お客様に価値を伝えるためには、社長ひとりでは限界があります。お店で働いてくれるスタッフ皆にも、価値を伝えることの出来る存在になって欲しい。そのために、丸岡社長は日曜日はお店をお休みにする決断をされました。目先の売り上げよりも、スタッフの皆が自分の家庭生活とバランスをとって働きやすい環境を優先したのです。

 

丸岡社長は「個性は貫いてこそ伝わるものです。本物の信頼を得るのには10年も20年もかかります。でも、小さい店だからこそ出来ることがたくさんあるのです。」と話されます。

 

 

高崎の「イオン」と「まるおか」は同じスーパーマーケットで隣同士ですが、別の世界(マーケット)に生きています。生物に例えると両者は生息環境も食べるものも違う別の生物なのです。「イオン」は「まるおか」のようには生きられないし、「まるおか」も「イオン」のような生き方は決してできないのです。

 

「まるおか」が「イオン」に勝つ!という話ではなく、丸岡社長が、1店舗だけで小さくても、何をしたいのか?そのために何をすべきか?を心得て地道に続けて信用を拡げてこられた結果なのです。その道のりには大変なご苦労もあったはずですが、経営者として立派な方であり、企業の在り方として「一流」と言えるものです。

 

多くの顧客と、よき理解者であるスタッフに囲まれたこのお店はスーパーはもちろん、料理人としての経験を積んだ息子さんが戻ってこられバトンを受け取る準備をされています。丸岡社長のお店は「地域の宝」となったのです。

 

 

 

社長の会社では、規模に応じた戦い方ができていますか?まさか、自社よりもずっと大きな企業の成功事例などを真似ようとしていないでしょうね?

 

 

 

 

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