「リノベーション※」という言葉もかなり一般的になりましたが、市場は「リフォーム※」の方が圧倒的に大きいので、情報誌の世界では「リノベーション」も含めて「リフォーム」という表現がなされているようです。これがふたつの言葉を混同する一因にもなっているようです。
建設省(現 国土交通省)の定義では
・ リノベーション = 新築時の目論見とは違う次元に改修する(改修)
・ リフォーム = 新築時の目論見に近づく様に復元する(修繕)
と定義づけられています。
全体的に工事を行えば「リノベーション」っぽいですが、原状回復的なものは「リフォーム」です。一方で部分的な工事であると「リフォーム」的な感じがしますが、断熱改修のように新築時を超える性能を持たせる場合は「リノベーション」と呼べそうです。といった事を考えると、より混同してしまいそうです。
例によって、値段は安いのに分厚くて重いその分野でメジャーな「情報誌」をお施主様の気持ちになって読んでみました。「情報誌」の表紙にはしっかりと「リフォーム」と書かれていました。
率直に「すごっ!」と感じたことをご紹介します。
テーマ別まとめてカタログ請求
まず驚いたのが、こういった情報誌では定番の「まとめてカタログ請求」の進化でした。多くの出稿会社のカタログ請求を簡略化、一度でまとめて請求できるようにして、ハードルを下げてしまおうというおなじみの企画です。テーマ毎にしてグループ単位でサクッと選択するようになっているのです。「あれこれたくさんの会社をじっくり見ている時間がない!」「ずっと見ているうちに、よりわからなくなってしまった!」といった声に応えるシステムです。
人間は選択肢が多くなると選べなくなるようです。このことを示す例にシーナ・アイエンガーさんの有名なジャムの販売実験というものがあります。24種類のジャムを並べた時と6種類だけの時を比較すると、6種類と数が少ないほうがトータルで多く売れたという研究結果です。結論として、
・選択肢が多すぎると迷いやすい
・選択肢が多すぎると選ぶこと自体をやめてしまう
この実験でのジャムと同様に、リフォーム会社も数種類のテーマにくくってしまっている訳です。
↑全国版のテーマ
↑首都圏版のテーマ
それだけでは出稿会社に失礼なので、分厚い本の中には各社のカタログ紹介ページもちゃんとありました。ここでも決められた小さなフォーマット内に各社のカタログ情報を掲載します。やはり、独自性は出しづらい感じです。鹿児島のふるさと屋台村のようです(わかりにくい例えですみません)これでは確かに「選ぶこと自体をやめてしまう」というのもわかるような気がします。
↑十把一絡げ(じっぱひとからげ)のカタログ紹介ページ
どんなリフォームをするといくらするか?
次に関心したのは、しっかり 実例+価格 が施工範囲毎にたくさん掲載されていることでした。以前の住宅系情報誌では、価格情報はいかにもザックリしていたり端数が全てまるめてあって適当な印象をもつものが多かったのですが、ここでは工事単位が小さいのでリアリティがありました。ひとつひとつは小さい記事ですが、ちゃんと図面とアフター写真と価格がセットになっていて興味をそそります。価格も設備・建材費と工事費に分けて記載されています。施工面積や造作サイズ・素材などの記載もあって間違いなく平均的な営業マン以上の情報量があります。
↑実例と値段がセットになってます(これは見入ってしまいます)
磨き上げられた実例掲載作法
最後にこういう「情報誌」のメインディッシュとも言える実例掲載ページについてです。このページは掲載料も値段がはりますので、見開き掲載になっていることが多いです。写真も大きく掲載できて、まさに各社の「勝負ページ」です。しかし、ここで目を引いたのはDATAの部分です。ガッツリ読者が知りたい情報が右下の見やすい場所に並べてあって、パラパラ漫画のようにここばかり見てしまう人は多いのではないでしょうか。
DATA掲載項目は以下のようなものです。
■所在する都道府県
■築年数
■家族構成
■工法・構造
ここまでは一般的なプロフィール項目です。
■リフォーム費用(総額)
■リフォーム面積
■物件面積
リフォーム面積が明記してあることで坪単価が出せるので嬉しいのでしょうね。
■費用内訳として
・仮説・解体撤去工事
・木工事
・左官工事
・電気工事
・給排水工事
・内装工事
・資材
・その他工事
・諸経費
費用内訳はなかなか出したくない会社も多いと思いますが、出さないと信用してもらえない空気感が広がっている様を感じました。定額系の会社は割安感を出すためにあえてキリのいい金額の一式表記でがんばっていました。
■新しくした設備・建材
簡単に素材名やメーカーが記載されていました。
■会社の特徴
▶︎プラン提案
▶︎デザイン
▶︎大規模・全面
▶︎小規模・部分
▶︎マンション
▶︎耐震補強・断熱
▶︎自然素材・エコ
▶︎定価制商品
▶︎中古購入サポート
▶︎アフターサービス
▶︎印の中から対象になるものを選択して掲載するようになっていました。定価制商品というのは広さやリフォーム箇所で予め定価設定されていて、着工後の予期せぬコストアップが避けられるというメニュー。深く考えると意味不明のものもありますが、これが一般的な会社と特徴カテゴリーであることは意識しておいても良いのかもしれません。
「得意なリフォーム金額帯」という表示もあって、0から2,200万円がMAXになっていました。どうやら2,200万円超というレンジは圏外のようです。幅ひろーく表示している会社と、そうでない会社があって面白いと思いました。大手は「500万円未満はお断り」という傾向が顕著でした。
首都圏版には300万円以上のリフォーム実施者825人を対象に2019年に実施した調査結果が掲載されていて、一戸建平均が614万円、マンション平均が552万円ということでした。ボリュームゾーンは一戸建・マンションともに300〜500万円未満で50%超。1000万円以上は一戸建で15.6%、マンションで10.9%という結果だそうです。
↑各社「勝負」の実例紹介ページ
↑実例写真よりもこういうところに注目してしまいます
さよなら「ペーパーマガジン」
掲載されている内容はともかく、現代のお施主様たちが反応しやすい表現と手法を磨き、確立してきた紙媒体としてのこの「情報誌」は休刊となりました。この300円の雑誌がAmazonでコレクター商品として3200円になっていて気づきました。
この手の住宅系情報誌に出稿した経験があります。掲載フォーマットが厳密に決まっていて、掲載内容・文字数・写真点数・写真縦横など細かく設定されています。入稿された情報の編集作業を極限まで簡略化するためです。また、写真の色味調整なども一発勝負で、かなりの回数出稿してオリジナル画像と印刷画像の色味の変化のクセを見極めないと思った色合いで印刷されることは稀でした。そういった条件下で他社の出稿と差別化するのは至難の技であり、ある意味で違った発想が求められる場でもありました。
しかし、広く読者からの反響を取り込む「技」は確かなものがあり、長年磨き上げられたそのノウハウがここで終焉を迎えるのは惜しい気がします。高額な掲載料✖️格安な値段✖️膨大な発行部数が多くの反響を生み、成立してきたモデルが限界に達したということかと思います。土俵はネットの世界に完全移行することになります。
ネットの世界では紙媒体と違って、よりローコスト✖️タイムリー✖️多くの情報を武器に展開されるものと思われます。しかし、人が集まるところに出店するスタイルは同じです。これは「ショッピングモール型」とも言え、コストがかかる割には個性を出しにくい点も同じです。(床の間に向かって座るポジションです)
ネットの世界は紙媒体の世界と違って、ひっそりと自分のアドレスでも情報の質と発信方法を工夫することで価値観の合うお客様に「見つけてもらう」「訪れてもらう」ことは十分可能な環境です。しかも、比較にならないぐらいローコストで情報資産を活用・展開できます。やりようによっては、資金力に勝る大手と中小・零細が同等に戦えるフィールドに移ったということです。
メジャー「情報誌」が休刊になったからと言って、流れに任せて紙媒体からネット媒体について行って出稿するのではなく、ここらあたりで知恵を使って自前での発信を研究すべき時が来たのだと受け止めるべきでしょう。ご存知かと思いますが、ネットの世界では「情報誌」への1回分の出稿費で相当なる「トライアル」が可能です。
社長の会社では集客の多い情報誌や紹介サイトに出稿したことはありますか?独自の発信で「価値観」の合うお客様に発見してもらう努力を重ねていますか?