売れる力とは? 2024.01.29

EVに見る「潮流」

 

 

プロパガンダと補助金で歪む市場

 

 

国が政策として物事を成してゆくにあたって、補助金により民間の負担軽減を図りながら進めるケースは従来からあることです。最近では住宅向けの長期優良住宅やZEH住宅に対する補助金や、EV(電気自動車)などクリーンエネルギー自動車向けの補助金などエネルギー関連のものが目立ちます。公金支出の大義が分かりやすいからです。

 

新しい技術を使ったものは高額で最初は普及していません。その状況を早く脱して、経済的に成立するように産業や市場を構造的に育成するために補助金が投入されます。しかし、こういった施策は受益者負担の原則に反する面もあります。EV購入者が受益する補助金をEVに乗らない人が負担しているからです。なので、運用を間違えると大きな問題にもなります。

 

いっぽう、最近事情が違ってきている面もあります。それは、こういった補助金などの政策が一国の政策というよりは「地球温暖化」や「経済安全保障」の名の下に国際的な流れや約束によって進められることが目立ってきた点です。

 

「経済安全保障」などという表現はこれまであまり使われなかったワードですが、形を変えた国家間(国際間の陣営)の戦いの様相が濃くなってきています。それゆえに予算規模も大きくなる傾向にあります。

 

また、関連支出が大きくなると関わる業界も拡がり、様々なプロパガンダが試されます。本来なら苦しいビジネスを補助金によって「お急ぎください」感や「今ならお得」感が出せて儲かる可能性が高まるからです。

 

 

 

↑令和5年度 住宅新築に対する補助金支援事業の一覧(国土交通省WEBサイトより)

 

 

 

↑令和5年度補正予算:クリーンエネルギー自動車導入促進補助金の概要(経済産業省WEBサイトより)

 

 

 

政治的変化とトレンド崩壊

 

 

「地球温暖化」→「脱炭素」→「クリーンエネルギー」といった機運は疑い用のない、反対する人の少ない社会的正義そのものでした。しかし、そういった風潮もここに来て少し雲行きが変わってきました。多くの人が感じている事です。様々な負担に耐えられなくなってきているのです。

 

報道でも「世界的EVシフトに日本の自動車産業が出遅れ」といった論調から「世界的EVシフト軌道修正、トヨタ全方位戦略で一人勝ちか」というものに変化してきています。これは、世界の企業が政治的に中国から距離を置き始めていることと無縁ではありません。現に中国製EVを補助金対象外にするといった、中国企業に覇権を持たないための露骨な施策も各国で講じられています。

 

ネット上でもEVの問題点が毎日のように発信されるようになり、中国でカーシェア企業が相次いで破綻し大量のEVが放置されている画像などが拡散されました。こういう画像が「フランスでの光景」だとして拡散されたり「電池交換コストが高すぎて廃棄されている」といった事実とは違ったコメントが添えられていたりするので、悪評が拡がる速度もひとしおです。

 

現在のEVは電池にタイヤをつけて走っているようなもので、一定の航続距離に必要な電池重量は数百kg、大型EVでは500kgを超えるそうです。重いので事故の際の衝撃が強かったり、モーターの駆動力が高いのでタイヤに負担がかかり摩耗が早かったり、電池の容量不足で航続距離が短い、電池が劣化した場合の交換コストや廃棄・リサイクルコスト、充電施設不足など問題山積です。

 

さらに「経済安全保障」的には、電池の原材料となる希少金属の埋蔵量が本格的な需要に対して少ない、産地が世界的に偏っていることによるリスクも実は解決していません。EVが普及すればするほど、原材料が高騰する可能性を秘めているということを意味します。

 

テスラ株もここのところ不調で最高値の半値以下に下落しています。様々な要因が重なってはいますが「テスラ社がEVを牽引していく」という投資家の期待が消えたからです。株価は「期待値」で決まる部分もあるのです。特に新興分野を担う企業ではその傾向が強くなります。

 

中国国内ではテスラ製EVの乗り入れ禁止区域が増えてきているそうです。理由は「テスラ製EVはカメラやセンサーだらけで様々な情報を記録、サーバーに蓄積しながら走るから」だそうです。EVは高性能センサーを搭載したコンピューターにタイヤをつけて走っているようなものでもあるのです。中国政府としては「中国メーカーのEVを買ってちょうだい」というのが本音かもしれませんが、報復として中国以外の国で、同じ理由で中国製EVが制限されてしまうかもしれません。

 

現代では良い評判も悪い評判も拡散スピードが極端になってきました。ひと昔からするとジェットコースターのように社会の風潮が一変するのです。(EVが発展途上であることは最初から分かっていたはずですが…)

 

 

↑ネット上で拡散された「EVの墓場」

 

 

 

↑テスラ社の5年間の株価推移

 

 

 

「トレンドに乗る」のは投資と同じ

 

 

このように、世界経済や国が主導する施策・トレンドには「賞味期限」があります。そしてその期間が短くなってきているようです。事業分野や展開方法の選択は、株式や商品などへの投資と似てきました。様々なものが資本主義・経済原理で動いていますので仕方がありませんが、リスクの大きい選択を煽る人たちの存在も増えている点には注意が必要です。

 

情報を得てトレンドに早く乗っかれば上手くいきますが、降りるタイミングを間違うとあっという間に状況は変わります。皆が知るところになってから始めても、逃げ遅れると大損する場合もあるのです。これは、金融商品への「投資」とまったく同じです。ハイリスクです。当然ですが、事業に「元本保証」などはありません。

 

大規模企業の経営となると、トヨタのように将来のリスク分散の為あちこち保険をかけておく「全方位戦略」という選択も功を奏する場合もあります。しかし、中小企業がそのような手法を真似ていると間違いなくつまずきます。なぜなら、同じ株式会社・企業でも住む環境が違うからです。場合によると、バクテリアと哺乳類ほどに違うのです。哺乳類がバクテリアと同じ生き方ができないのと同じです。(生物としてはバクテリアのほうが先輩ですが、生き方はシンプルです)

 

そのあたりを心得て「投資」はしなくてはなりません。

 

 

 

経営者が判断してトレンドに乗ることは悪いことではありません。しかし、その場合かならず社長は「出口戦略」を用意しておかなければなりません。もちろん、うまくいかなかった時のほうの「出口戦略」です。

 

 

 

 

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