売れる力とは? 2020.06.08

『メーカー保証がつかないので・・・』

あるクライアントの技術者の方と打合せを行っていた際のことです。

汎用的に形状や機能を展開できるオリジナル部材の製作手法を提案したところ、着工後になって

「やっぱり従来の既製部材の仕様に戻させてほしいんです💦」との相談がありました。

「えっ?どうしてですか?」とお尋ねしましたら、

その理由は「メーカー保証がつかないので・・・」

とのことで、一瞬こちらが固まってしましました。

 

すべての部材に『メーカー保証』を望む、その姿勢はどこから来るのか?

設計者としての見分ける眼や、請負者としての部品選択の根拠は?

じわーっと強烈な違和感とともに、最近思うところがあって読んだ20年以上前に書かれた本のことを思い出しました。

 

そこにはこういう見方が書いてありました。

 

●ものづくりを支える職人が激減していく中、建築技術者は増加。

●そうして高度な教育を受けた人材が増えているのにもかかわらず、彼らが社会で行っている設計行為たるものは既製の部品を選び組み合わせることが主体に。

●その理由は従来は下請ポジションであった部品産業にいつの間にか選択肢を握られ支配されているから。

 

確かに…

さらにこのような事も。

 

▶︎ほっておいたら「選択型」の設計者だけになり、その結果として、設計者たちは好ましい部品がみつからないままに、妥協的な選択を繰り返さざるを得なくなる。

 

▶︎部分 『住宅ができる世界』のしくみ、靖国社、1998年より

 

 

とも。

20年以上経った現在、予言的中ともいえます。

「木を見て森を見ず」と言いますか、「カタログを見て理想の機能を見ず」と言いますか、施主にとってはお寒い状況といえそうです。

「どうせそのレベルだったら、賃貸住宅でいい!」という声が聞こえてきそうです。

 

また、この本には「住宅生産気象図」なるユニークな図解も登場します。

 

長方形の面積が新設住宅着工戸数

縦軸方向左軸が木造・非木造、右軸が戸建て・長屋建て・共同建てに区分

横軸方向が上軸が木造の在来・プレファブ、下軸が非木造の在来・プレファブに区分されて図示されています。

 

 

↑「住宅生産気象図」(松村秀一『住宅ができる世界』のしくみ、靖国社、1998年、p .11より転載)

 

この「住宅生産気象図」は中間部分の断面図であり、さらに重層的に

上部に住み手社会が

下部に職人・部品・建材産業が

位置するといった概念とのことで、そういう整理のしかたもあるのかと感心しきりでした。

 

 

↑「上部構造と下部構造」(松村秀一『住宅ができる世界』のしくみ、靖国社、1998年、p .12より転載)

 

昔の教科書のようないかにも理系っぽい図表ですが、よく考えられていると思いませんか?

後半では、設計者にとっての将来への希望も述べられていました。

 

▶︎設計者や住み手にとっての部品のあり方の行き着く先には「バーチャル・ファクトリー」がある。

つまり、どんな工場で製造されたかわからない出来合いの部品をカタログから選ぶのではなく、ある部品工場でできることを熟知したうえで、それを使いこなして自らの考えるぶひんを製造できるという感覚の獲得である。設計者や住み手が自らの工場を持っているかのように振る舞うことができればそれでよい。 いわく「自らの欲するところに従いて則を越えず」

 

▶︎部分 『住宅ができる世界』のしくみ、靖国社、1998年より

 

 

「自らの欲するところに従いて則を越えず」

こういった環境は、私たちの周りにも既にあります。

先日動いているところを見せてもらったのですが、3Dプリンターのようなものもそうだと思いました。

離れたところから正確に情報共有して、カスタマイズされた一品生産を行うことも可能です。

 

↑↑3Dプリンター(右横は材料となる線状の樹脂のロール)

 

 

↑3Dプリンターで作る家(ミニチュアパーツだけでなく実物大の家も作られてますよね)

 

ビジネスとしての環境は常に変化しています。

この本の内容はその方向をいかに的確に捉えるか、腹落ちする知見が語られていました。

 

いつの時代にも共通している問題はお客様(対価を払う人)にとって長い目でみて価値があるのかどうか。特に住宅に関しては、未だあたりまえであるはずのその事すら満たされていないのではないかと感じています。

 

生産段階の経済合理性やばかりではなく、もし、住まい手の生活価値に大きなインパクトを与え続けるものに気づいたとしたら、そのときは躊躇なくトライしてほしいのです。結果としてその取り組みは選ばれる理由となり、将来の繁栄の礎となるからです。

 

そういう気概のある経営者のお手伝いをするのが当社の使命、その時に少しでもお役に立てるよう今も何かを学んでいるのです。

 

 

 

あなたは、そのとき躊躇なくトライできますか?

 

 

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