「地元企業」の灯台下暗し
クライアント企業の社長と話していると、異口同音に言われることがあります。それは「相見積もりはイヤです」「価格で比べられたくない」というものです。また「人手が足りない」「採用がむずかしい」といった声も最近多くなってきたように感じます。
先日、様々な発想や努力で「価格競争」から抜け出した企業を多数紹介するお話を聴かせてもらう機会がありました。意外なことに、紹介されていた企業の中には社会人になるまで住んでいた街や、子供の頃に毎年夏休みを過ごしていた場所にある企業があったのです。
何れもローカルな中小企業ですが、地道な商品開発により素晴らしい経営をされている事例でした。地元にいた頃には、身近にそういう企業があっても知る由もなかった訳ですが、今思えばまさに「灯台下暗し」という感覚を覚えます。
実家が家業で工場経営をしていましたので、小学生の頃からいろいろ手伝っていました。希望すれば小遣い稼ぎは家業でできましたので、アルバイトなどの「仕事を探す感覚」には疎いほうだったかもしれません。当時住んでいた大阪では地域柄「自営業」の子供たちも多く、同じような境遇の友達が多く住んでいました。
そういう子供が多かったせいか、同級生の中で「地元や親戚のいる地域で働きたくない」「しがらみのない地域で自分を試してみたい」という雰囲気が強かった気もします。「地元でついてしまった色を違う土地に行って変えてしまいたい」という感覚です。高度経済成長の真っただ中、子供も街に溢れている時代でしたから、みんなそう思っていたのかもしれません。大人も子供も心の中の世界がどんどん拡がっていたのでしょう。
↑子供の頃に毎年夏休みを過ごしていた場所にある素晴らしい企業(ハンガー屋さんです【画像がWEBサイトのリンクになっています】
「就職情報」の今昔
思い返せば、アルバイトに精を出し始めた高校時代や、大学時代の就職活動などには未だインターネットはありませんでした。その代わり「就職情報誌」なるものが主たるメディアになっていた時代で、高校時代にはアルバイト探しの際には必ずお世話になりました。同級生には、薄いカバンに「就職情報誌」だけを潜ませている強者も何人かいました。「職」への目覚めの早かった連中です。いまどうなっているか、彼らには是非会ってみたいものです。きっと、面白い話を聴かせてくれるはずです。
大学時代にはご縁があって「就職情報誌」を印刷している工場でアルバイトをしていました。誰よりも先に、最新の求人情報が見れる職場でした。当時の印刷部数たるもの凄まじい量で、刷っても刷っても終わらないような体験をしました。工場長は、いつもタバコを2、3口だけギューッと吸い込んでポイッと捨てて、早歩きで仕事に戻っていく人でした。当時の「就職情報誌」は社会の主たるメディアでしたから、製本工場は年じゅう猫の手も借りたいほど忙しかったのです。
大学の研究室は理系でしたから、企業からの採用情報は教授が握っていました。大人しく教授に従っていれば、2〜3社の企業を就職先として提示されました。当時は景気の良い時代でしたから、私のような何とか留年せずに4年生になった学生でも教授推薦で上場企業への応募も可能でした。(自分で就職活動をしたくて丁重にお断りしましたが)
最近では紙媒体はすっかり影をひそめてしまい、就職情報サービスの主戦場はインターネット上に移ってしまいました。求人サイトの機能も多様化し、人工知能やビッグデータなど、最新技術を取り込んだサービスが数多く誕生しています。
↑バイト先でつくっていた「就職情報誌」の歴史(今はもうないようです)【画像がWEBサイトのリンクになっています】
↑「求人情報サービス」の歴史(ネット上が主戦場になっています)【画像がWEBサイトのリンクになっています】
「働く喜び」はどこに行った
最新の求人サービスサイトをいくつか見てみましたが、掲載内容そのものは意外と昔と変わっていません。WEBサイトの場合は紙媒体と違って掲載量に制限がないので情報量そのものは多いのですが、見るかぎりは通りいっぺんの内容です。さしずめ「求人情報誌」+「会社案内」といった構成です。これには、以下のような事情が考えられます。
■同じ料金をもらって掲載している募集企業の間で情報量に大差がつかないよう、フォーマットを決めて原稿記入してもらっている
■募集企業から報酬をもらっているWebサイトなので、掲載内容が採用側のニーズに最適化されている
■求人サービス運営会社は就職希望者の個人データが欲しいので、就職希望者が欲しい情報は会員登録後に見れる(または、見れると思わせる)つくりにしてある
インターネット上の最近の商売は何でもそうなってきていますが、学生からの評価など、就職希望者が見たい情報はボカシがかけてあって会員登録後でないと見れないようになっています。会員登録したからといって、本当に期待する情報が見れるとは限らないのですが、要求された個人情報を打ち込んでしまうのです。ひと項目でも入力しないとボカシを消してもらえないのですから、強烈です。
こういったやり方は「ダークパターン※」とも言える手法ですが、ネット上では大企業を中心として、あまりに多用されているのでほとんどの人が疑いもなく利用してしまっています。
※ダークパターン:ユーザーを騙すために慎重に作られたユーザインタフェースのこと。例としては購入時に保険に入会させたり、何かを定期購入させるなどの特定の行動をユーザーに促すものもある。『購入ボタン』よりも『定期購入ボタン』の方が目立つ配色や大きさになっているケースや登録は簡単なのに退会が非常に面倒であるケースなど様々な例がある。プライバシー侵害や人々の判断力低下など複数の問題点が指摘されている。
こうして見てみると求人サービス運営会社にとっては、就職する人の「満足度」や「定着度」などはあまり関心がないのかもしれません。ぶっちゃけ、入社後どんどん離職してもらって、その企業に再度募集してもらったほうがビジネスとしては繁盛するのですから。
もし、私が今の時代に大学生で近くに住んでいたとして、地元の素晴らしい経営をしている企業の存在に気がつけたでしょうか。現代の求人情報サービスを見る限り、どうも難しそうな気がします。現代でも就職先を選ぶ際の情報収集先から本物の「働くよろこび」を感じ取るのは至難の業であるからです。
次回コラムにつづく。