国内線の飛行機を予約するとき、おおかたはJAL派とANA派に分かれます。最近ではローコストの航空会社も増えて、必ずしも2派ではないかもしれませんが。
私はANA派です。といっても、普段は出来るだけ運賃の安い航空会社を選びます。安いけどフライトの時間帯が中途半端だったりして、いろいろ調べているうちに地味に予約に時間がかかってしまいます。という訳でANAにはあまり乗ってませんでした。しかし、最近は新型コロナの影響でローコストの航空会社の便は減便が多く、希望する日にそもそも便がありません。なので消去法でJALかANAに絞られるようになっています。さすが、こういうときには頼りになります。
機内誌に見る時代の流れ
久しぶりにANA便に搭乗しました。シートに座ると、何だか視界がすっきりしている気がしました。いつもはいろいろ突っ込んであるシートポケットがすっきりしているのです。おなじみの機内誌『翼の王国』も入っていません。CAさんに聞いてみると、「感染対策もあって入れておりませんが、お持ちしますね」といって新しいのを一冊持ってきてくれました。
どうしてANAなのか?というと、新入社員の頃に初めて飛行機で出張した際に乗せてもらったのがANAだったというだけです。確か、大阪⇄仙台便だったと思います。そして、どうして機内誌が欲しいのか?というと、あちこちに飛行機で出張するという20代の頃に初の飛行機出張で描いた「できるビジネスマンのイメージ」が刺激的で、ポジティブであったということでしょうか。『翼の王国』を手に取ると当時の「上昇志向」がよみがえり、なんだか気分が「上がる」のです。
『翼の王国』には名物特集とも言える「おべんとうの時間」という記事があって、なぜだかいつも最初に見てしまうのです。この記事はもう4冊もの単行本シリーズになっています。最近、外食を避けてお弁当を持って会社にいく人が増えているとのことですが、そういった人たちからもきっと支持が拡がっているのでしょう。
その『翼の王国』が4月号からサイズが小さくなりました。1960年創刊だそうで、この4月号はNo.622とありました。ご存知のとおり、長引くコロナの影響で航空会社は業績が上がらず航空業界は瀕死の状況です。その中で機内誌がコストカットの対象となっていることは間違いないと思われます。機内のシートポケットに入れず、希望者のみに渡すとなればかなりの印刷部数削減がなされているのでしょう。旅行代理店や空港のカウンターで必ず見かける看板みたいな存在であった航空便の時刻表でさえも、この春に廃止されました。
印刷部数を減らして、さらにサイズを縮小する徹底したコスト削減かー?と思いきや、手に取ってみるとそうでもない事情が見えてきました。
↑新旧のANA機内誌『翼の王国』(右のあたらしいのは小さくなっています)
↑廃止されてしまった航空便の時刻表(こちらはJALさんです)
小さくなったのに字がでかい
A4版からA5版に小さくなった冊子を家に帰りついてから開いてみました。なんとなく「中身もしょぼくなっているのではないか」と思っていたからか、すぐに中を見ていなかったのです。やっぱり気になるのは『おべんとうの時間』でした。ありそうなページあたりにめぼしをつけて開いてみたら…ありました。ありました。よかった。
しかし、なんか雰囲気が違います。これまでのA4版のを取ってきて見比べてみると、文字の大きさと段組みが全然違っていました。文字フォントが、えらくでかくなっていて段組みも単純になっているのが違和感の原因でした。一旦は「老眼対策かいな?」と思ったのですが、バックナンバーも見れるというANAアプリをスマホに入れてみたらやっと理解できました。
そうです。スマホで紙面を見る際には、このぐらいのでかい文字フォントが適当であることが一見して理解できました。スマホなら指で広げれば拡大してみれはしますが、ひんぱんに大きくしたり小さくしたりしていると、どこを読んでいたのか分からなくなるときもあって、煩わしいですよね。(老眼あるあるです)
できれば、指で大きくして見るのは特に気になった画像だけにしておきたいところです。やはり画面サイズに対して適当な塩梅の文字の大きさというものはあると思います。ということもあって今回、冊子のサイズ変更とともにスマホで読む紙面デザインに変わったということ、スマホに冊子が合わせるという時代に切り替わったのですね。
「印刷部数を減らしてしまうと、今までのように広告を出稿してくれる企業も減ってしまうし、掲載料金も下げないといけないよなー」なんてぼんやり考えていましたが、完全に的外れでした。冊子の印刷部数は減っても、スマホアプリでバックナンバーも含めて読めるようにすることで賞味期限も長くなり、読まれる実数はずっと多くなるはずです。ひょっとしたら、閲覧数の増加にしたがって紙面広告の掲載料金は値上げされていくかもしれません。
↑新旧の記事の違い(左が旧、右が新、幸いにも『おべんとうの時間』は健在でした)
↑ANAアプリで見た『翼の王国』の『おべんとうの時間』(左が旧、右が新)
↑ANAアプリで見た『翼の王国』(左が旧、右が新、文字の大きさと段組みなるほどですね)
「本物」のお客様はホームページの何をみているのか?
創刊以来60年以上も続いてきたANAの機内誌『翼の王国』も大きな転機を迎えました。これからの時代で多く利用されるプラットフォームは何か?ということに素直に対応した結果です。新型コロナの影響は否めませんが、それは時期的な面でだけで遅かれ早かれ「変化」する流れであったものと思います。
先日、工務店・ビルダーさんのホームページを200サイトほど一気に見ました。スマホにも対応した今ふうのサイトがたくさん見られましたが、ひと昔前のパソコン画面のみを想定したつくりのサイトもまだまだ多く残っていました。ホームページを見くらべていると、その差異からいろいろなことが見えてくるものです。これは、お客様をはじめ建築については「素人さん」であったとしても同じです。
その会社の経営者がホームページに登場していなくても、多くを比べてみる中でその会社の考え方がじんわりと透けて見えてくるのです。これは、スマホに対応しているか否かといったデザイン的なこととは別の話で、デザインは古いけど経営者の個性や意思を感じるサイトもあれば、最新のデザインでコンテンツてんこ盛りであっても全く経営者の顔を感じない「顔なし」サイトも多くあります。つくる際の目的意識が、それぞれぜんぜん違うのだと思います。
同じホームページであっても、時間とともにその「見られ方」や「役割」は大きく変わっています。私たちはよほどの注意を払わないと、そのことに気づかないことも多くありそうです。時代の流れとともに何かが無くなったり変わったりするときには、いつもひっそりと何かが生まれているはずです。古き良きものを惜しむとともに、その向こうに見えてくるものに視線を移し、ぜひフォーカスしてみてください。
社長の会社では時代の移り変わりによって寂しい思いをしたり、痛い目にあったことはありますか? 大きく時代が変わるとき、必ずある「生まれてくる変化」を凝視されていますか?
続『翼の王国』考 を見る