続・家づくりの玉手箱 2022.01.17

燃やす『暖房』考

 

尋常ではない和室の寒さ

 

前回は、屋根裏で寝ていると寒さ知らずという話でした。

 

しかし、トイレのある1階に降りていくとその温度差は15℃を超えることもあると書きました。薪ストーブをガンガン焚いた日には、実際に屋根裏が28℃に達し1階が13℃というケースはありましたが、薪ストーブをケチケチ焚いている頃はそこまで1階が冷えることはなかったように思います。

 

そう、それは『森のこびと』のようなお向かいのおじさんが、毎年薪棚にどんどん薪を積んでくれるようになってからかもしれません。それまでは、お日さまが出なくて床暖房ができなかった日だけトロトロと控えめに焚いていましたから。

 

おじさんについては『森のこびと』に出会えた土地選び をご覧ください。

 

『森のこびと』のおじさんが毎日のように、使った分だけ積んでくれるのでついつい贅沢に焚くようになってから一段と1階が寒いのです。薪ストーブのおかげで屋根裏がすごく暖かいのと同時に、1階がよけいに冷えているような気がするのです。

 

最近では測定ツールが手軽になって、自宅にも色々とありますので測ってみました。 1階和室にある引き込み窓のうち、特に冷気を感じる小さい方の窓に照準を絞りました。毎日夕方には雨戸(耐水合板)・ガラス戸(木製枠にペアガラス)・障子は全て閉めています。1月の朝、外気温は5℃の時の様子が以下のような状態でした。

 

⇅雨戸・ガラス戸・障子全部を閉めた状態で障子紙表面は15.5℃

 

 

⇅障子を開けてみると、ガラス面は10.3℃

 

 

⇅雨戸を開けてみると7.8℃に(いちおう雨戸は効いているようです)

 

 

体感どおりの冷え方です。えらいもんです。ガラス戸だけだと外気温に近いです。 木製枠にペアガラスといっても、サッシではなく手作りの木製建具ですから、窓周りは隙間だらけです。特に敷居まわりは真鍮のレールにコマで走るタイプですから、窓が閉まっていてもかなりの隙間面積になるからです。

 

 

どうしてこんなに冷えるのか?

 

どうして、薪ストーブをガンガン焚くと1階が寒くなるのか?何が起こっているかというと、こういうことです。

 

 

 

↑①薪ストーブを点火する

 

↑②薪ストーブは室内の空気を吸い込んで燃やし、煙突から排気を始める

 

↑③煙突から排気された分(薪ストーブが吸い込んだ分)の空気が室外から入ってくる

 

↑④次第に炎の勢いが増し、更にたくさんの室内の空気を吸い込む

 

↑⑤更にたくさんの空気が室外から入ってくる

 

(実際には①〜③、④⑤は同時進行です)

 

 

次に、どこから室外の空気が入ってくるのか?です。

 

自宅の窓は2階も1階同様の低気密窓です。しかし、より多く室外空気が入ってくるのは最も温度が低く「負圧」になっている1階の一番気密の低い窓からということになります。

 

「負圧」とは、屋外に比べて室内の気圧が低いこと。水が高いところから低いところへ流れるように、空気のあるところでは、高い圧力の空気が低い圧力の空気へと流れ、同じ気圧になろうとする原則が支配しています。

 

1階が強い「負圧」になる理由は、上下の階の温度差によるものに加えて薪ストーブで加熱され煙突から排気される空気の分さらに上昇気流が増すからです。2階に薪ストーブがある自宅では、上下階の温度差がより顕著になります。

 

こうして考えると、薪ストーブを焚けば焚くほど1階の和室が寒くなるはずですね。寒い日には夜通し焚いたりするので、それはすごい換気量になるはずです。1階は「強制空冷状態」になる訳です(笑)

 

薪ストーブを焚く=排気をするということですから、吸気口が必ず必要です。高気密設計で薪ストーブを使用する場合は、専用の吸気ルートの検討が必要になります。高気密設計でないとしても、薪ストーブ用の専用吸気ルートを確保することで自宅のような「強制空冷状態」は回避できます。

 

 

「低性能」でも「高機能」な窓

 

このようなことが起こる「理論」はずっと前から知っていました。 しかし、その「理論」が自宅でいつ、どのように発生して、どのような結果をもたらしているのか?については、恥ずかしながら気にして生活してきませんでした。

 

火を見る情緒や輻射熱によるあたたかい団欒はあこがれでしたし、小さい家ならば薪ストーブがあるだけで家中暖かいイメージを持っていました。しかし、寒い場所をより寒くする「効能」は実際には全く意識外でした。

 

和室の窓の気密の悪さは今回しっかり証明されました。それにしても、見事なスカスカぶりです。そういえば、雨戸を閉めているのに次の朝開けるときに笹の葉やゴミが入ってきている事がよくありました。風の強い夜などは必ずといっていいほど何かしら入ってきています。今回撮影していて改めて気が付きました。

 

↑ガラス戸を開けていないのにいつも色々吹き込んできてます(汗)

 

改めて見てみると、雨戸の合板がめくれあがってきていました。雨戸を閉めていても、なんとなく外の天気がわかります。ここが雨に濡れやすく、濡れたあと乾きにくい場所なのでしょう。もう19年使ってる訳ですから、環境が物の姿を変えて、いろいろと語りかけてきます。

 

断熱や気密といった「性能」という点ではダメダメな窓ですが、50坪ほどのこの場所で心地よく生活するための選択肢を豊富に与えてくれます。これは「機能」と呼べるものです。それを知ってしまうと、こころもとない「性能」を補って余りあるほどのものです。この「機能」をもってして「性能」がともなっていれば、なお申し分のない家になるでしょう。

 

自宅のような低気密状態では、さすがに大丈夫だと思いますが、気密が上がって吸気量が少ないと薪ストーブが空気不足で燃えにくかったりします。ひどい場合は、換気扇の排気に負けて排気すべき薪ストーブ内の煙が室内に逆流することもあります。

 

どうせお客様に薪ストーブを楽しんでもらうのなら、実践に重ねた「理論」を身につけて提案したいものです。そのことで「設計の自由度を失う」と考えるか、「設計内容の選択肢に必然性が増す」と捉えるかは、まさに設計者の「知性」と「資質」に委ねられます。

 

 

社長の会社では、様々な『理論』が「どういうもので、なぜそれが大切なのか?」お客様に説明されていますか?また、その際に自らの体験を「具体例として挙げて話すこと」に努めていますか?

 

 

 

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