続・家づくりの玉手箱 2022.01.10

『寝床』探訪記

 

「寝床」の玉突き現象

 

珍しく、年末に娘が帰ってきました。

 

家を離れて10年以上経ちますが、帰ってきた時は元々彼女の陣地であった屋根裏で寝ます。よって、私か妻かのどちらかが押しのけられることになります。これがなぜか暗黙のルールのようになっているのです。

 

追い出された私ないし妻は、夏場であれば1階の和室にお布団を敷いて寝ます。しかし今回は寒い時期で、じゃんじゃん薪ストーブを炊いていたりするので寒い和室で寝るのはどうも気が進みません。

 

自宅の薪ストーブは2階にありますので、2階と屋根裏は春の頃以上の室温になります。しかし、1階は焚けば焚くほど外気が入ってきて冷え込んできます。自宅は手づくりの木製窓がたくさんあって気密性は相当低いからです。ストーブ全開にしていると屋根裏との温度差はなんと15度以上になることもあります(笑)

 

激しい温度差の原理はこういうことです。薪ストーブを使用することで、室内空気を薪ストーブ経由で煙突からどんどん出していく訳ですから、その分どこかから外気を取り入れることが必要になります。主には最も気圧の低くなる1階から外気が入ってくるので寒いのです。

 

天気の良い日は、空気式のソーラーシステムが働いて日中の太陽熱を床下のコンクリートに蓄熱します。十分に蓄熱された日は、暖房しなくても1階の室温が20度を超えます。この蓄熱を活用して暖房器具を使わなければ屋根裏との温度差はせいぜい3度〜5度です。

 

床下のコンクリートに蓄熱された太陽熱は、夜も輻射熱となって室内に放熱されるので室内からの空気の放出は発生しません。だから薪ストーブを焚いたときのような外の冷気の入り込みは少ないのです。

 

普段は天気の良かった日は焚かないのですが、久しぶりに娘が帰ってくるので暖かく、と薪ストーブをバンバン焚いていました。その結果、思わぬ温度差で気密の状況を体感することになりました。

 

 

さあ、どこに寝よう

 

今回、押しのけられたのは私でした。

 

どうしても、暖かい屋根裏から1階に降りていく気がしません。屋根裏に置いてある妻の大きな机が目につきました。いつもより片付いていたので、机の上にお布団を敷いてみました。少々ポジションが高すぎて寝起きしにくい感じですが、寝転んでみるといい感じなのです。

 

そして、無理やりお布団を敷いた割には色々と条件がいいのです。窓のほうを頭にして寝転ぶと窓から空が見え、寝たまま窓の開け閉めができたりします。左右に棚があって眼鏡やスマホなどを置くところもありますし、手の届くところにスタンドライトも完備しています。そして、ここは薪ストーブの煙突のそばで、火が衰えてからも残った熱で朝まで暖かい場所です。

 

↑妻の机にお布団を敷いたところ(左側の椅子で敷布団が落ちないよう押さえています)

 

↑横から見たところ(エアコン直下なので夏はNGです)

 

↑普段の妻の机(手前のAmazonの箱たちはお布団用拡張スペース)

 

↑横から見たところ(普段は洋裁机として使っています)

 

 

またしても、新しい居場所を発見しました。まさかの場所でしたが、小さな家に素敵な居場所がまだまだ隠れてるようです。あまりに寝心地がいいので、娘が帰っていった後もしばらくここで寝ていました。何がいいのか分かりにくいと思いますので、再現画像です↓(寝転んでますので逆さまになっています。斜めの線は電気の引き込み線です。)

 

↑床についた時の視野(満天の星空です)

 

↑朝目が覚めた時の視野(うっすら赤みがかった雲がまたいい)

 

 

「さあ。寝よっと。」床について明かりを全部消すと頭上に星が輝き出すのです。窓との距離がほとんどありませんので、まるで外に寝ているようです。他の窓から見るのとはひと味違います。流星群の日には断然ここが良さそうです。

 

そして、朝目が覚めたときにその日の空模様がすぐ見えるのもなんとも良い感じです。朝日を浴びて西の空に浮かぶ、うっすら赤みがかった雲なんかも見えたりします。私は眼鏡必須なので星を見ていたら、かけたまま寝てしまいます。

 

 

「失敗」と思っていた窓

 

この場所の窓は、北よりの西を向いています。実は「失敗した」と思っていました。 なぜかというと、風がぜんぜん通らないからです。夏の西日が強い向きの上、棟に近い高い場所にあり樹木ではカバーしきれないからということで、高さ小さめの窓にしました。

 

このサイズの窓には風通しのいい縦すべりのタイプがなく、横すべりかFIX(はめ殺し)しかなかったので、しかたなく横すべりの選択をしましたが、家の中でも温度の高い場所につける窓としては不適切でした。他の窓がほぼ縦すべりか、大きく開く引き込み窓であるせいもあると思いますが、感覚的には開けていても殆ど空気の出入りがない感じがします。

 

↑こんなふうに開く窓です。(見た目より空気の出入りは非常に少ないです)

 

 

新たな「寝床」は家中でいちばん高い場所にあります。ここに寝ていると、他の窓や外の様子によって空気の動きがしょっちゅう変わるのがよく感じられます。空気の流れである「風」は目には見えないし、コントロールすることは以外と難しいものです。最近では高気密・高断熱をもって、空気の流れはマシンに任せるという傾向もありますが、年中それではホテルの部屋のようです。

 

先日、風の流れについて実測によるファクト(事実)を記した本に出会いました。かねがね疑問に思っていた「住宅設計者たちが図面に書き入れる風の流れ」の真偽についてなど、頷ける建築業界の「非常識」ぶりにも切り込む内容でした。「もう少しそこんとこを詳しくお願いします!」というところはあるものの、こういう本が出版されることは歓迎すべきことかと思います↓

 

 

『図解 風の力で住まいを快適にする仕組み』

 

野中俊宏+森上伸也+四阿克彦+並木秀浩 X-Knowledge

 

 

 

 

「失敗」と思っていた窓でしたが、枕元の窓としてはOKでした。薪ストーブの煙突からの予熱に包まれつつ、この窓を少しだけ開けておくと、寝袋に入ってテントで寝ているようなあのオープンエアな感じがなんとも気持ちいいのです。贅沢です。20年に渡る、この窓の不名誉もここで晴れたようでした。

 

それほど大きくないこの家で布団を敷ける場所はもう試し尽くしたと思っていましたが、まだ発見の余地がありました。書籍「家づくりの玉手箱」が出版された10年前にも同じように色々な場所に布団を敷いてみたりしていましたが、「寝床」を探る旅は未だ続いているのです。

 

↑書籍「家づくりの玉手箱」P115 寝床の大移動 (ずっとこんなことをやってるんですね 笑)

 

この家の設計者は「居場所は決めないほうがいい」と常に語っていました。「季節はめぐる。人は飽きる。気分は変えたくなるもの」と、頑として造り付けのソファやダイニングスペースには反対の立場でした。

 

その「哲学」には共感できますし、それを見越してあえて「余白」のある提案を実践する姿勢はいまだに類を見ません。「単に何もない」のと「考えた上で余白にする」のは、ぱっと見は似ていますが、後者は全く次元の異なる奥行きを持っています。

 

ひと様の「住まい」に携わるのなら、その先を見届けたくなるような仕事をしたいものです。自宅で新たな「居場所」を発見する度にそう思うのです。

 

 

社長の会社では、居場所を探せる家になっていますか? そのために必要な「窓の外の多様な体験」ができる提案になっていますか?

 

 

 

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