営業マン時代には、毎日のように土地ばかり見てまわっていました。お客様の所有している土地、新しく買われた土地、これから買おうとしている土地と、様々でしたが「視点」は共通でした。
「自分ならそこに家を建てたいか?」「それはなぜなのか?」
その2点が明確になっていないと、社長にプランしてもらえませんでした。
社長からは、施主も営業マンも「数十年そこに家がある前提」で考えるということが求められていた訳ですが、これはすごいトレーニングになりました。営業マンとしては、手っ取り早く土地を決定して話を進めたい訳ですが、そうは簡単にはいかないのです。そういう意識で土地を見ていると、選択が変わってくるのです。
せっかくご依頼をいただいて土地の下見をしたとしても「これこれしかじか」という理由で「この土地はやめましょう」とダメ出しをするケースも増えてくる訳です。というか、最初はそういうケースばかりでした。
「自分ならそこに家を建てたいか?」と言われると、候補にあがっている土地を見に行く頻度も増えてきます。一度見たぐらいでは分からないのです。同じ土地に何度も見に行くようなことも結構ありました。
そして、新しく造成される土地の場合はその前後も確認したくなってくるのです。造成工事前の元々の姿や造成中の現場には、造成完成後には失われてしまう様々な「情報」があるからです。とにかく手間がかかりますが「自分ならそこに家を建てたいか?」「それはなぜなのか?」を見出すまではがんばらないといけません。
傾斜地の造成団地にて
Jさんというお客様から、新規造成団地での「土地みたて」の依頼がありました。Jさんは見学歴も長く、土地の選択が住まいの居心地に大きな影響をもたらすことはよく理解されていました。当時の私はまだまだ分からないことばかりでしたがお客様と共に、見るべきところが分かっていく過程は面白いと感じていました。
Jさん:「実家との距離がそこそこ近い鹿児島市内の土地がいいんです」「できれば、将来もまわりの環境の変化がなさそうな場所を選びたいんです」
吉岡:「ご実家との距離感優先で考えるとすると、中古住宅の建っている土地なども含めて探す形でもいいですか?」
Jさん:「できれば、新しい分譲団地がいいんですが」「出来上がった集落に入っていくよりも、新しい入居者ばかりのお付き合いの方が気が楽なので。。」
吉岡:「そうなりますとかなり限定されますね。対象エリアに30区画ぐらいの造成計画があったと思いますが、ご覧になってみますか?」
Jさん:「それどこですか?見に行ってみます!」
という運びで、まずJさんが下見に行ってOKだったら私がどの区画が良さそうか「土地みたて」をするということになりました。その団地はまさに造成工事中でしたが現場の出入りはゆるく、いつでも自由に見に行ける状態でした。
↑鹿児島市内には尾根と谷が繰り返しあって、このような難所を造成した住宅地が数多くあります
↑新規の造成の割には、道路沿いにもすごい高低差が
↑土留めの傾斜部分と垂直部分からも元の地形が想像できます
↑高低差によって擁壁の厚みがぜんぜん違います
↑開発地の境界付近は「間知ブロック」積みになっています
造成地の土地みたて
平坦なエリアが少ない鹿児島市内においては、住宅地も地方にありがちな一極集中状態です。それゆえ受給関係から土地価格はかなり高めで取引されています。また、開発可能な土地も少なくなっていますので、傾斜地の開発・造成が多く進められていました。
Jさんの候補地もそういった事情の場所で、傾斜地であるが故に広く残されていた土地でした。ここに現存するほとんどの住宅は古い年代のもので、自家用車が一般的でなかった時代の建物でした。よって、道路が狭くて場所によっては法規上建て替えができないであろう建物も多く建っていました。
造成主は、土地取得がかなった土地の周辺の所有者と境界立ち会いを行って所有地の境界を再確認の上、造成を進めます。ですから、造成工事が始まる時点では土地取得からかなりの時間が経過しているケースもあります。とにかく早く造成完了して販売、資金回収したいはずですから、造成工事はたいていバタバタでやっています。
新しい造成団地の場合、分譲地どうしの建物の関係性は土地面積も限られていますし、ある程度予測がしやすいものです。しかし、分譲団地の端っこの土地は、今回造成対象にならなかった旧来の土地と接しているケースも多くあります。
こういった「端」の土地は慎重にその「近未来」の様子を予測して選ばないといけません。なぜなら、その土地は今回造成対象にならなかっただけで、近い将来別の開発がなされる可能性もあるからです。その際には大きな変化が訪れることが予想されるからです。
↑開発地の「端」では特に隣接地の近未来予測が必要になります
↑このくらい高低差があると、今後も視界を遮られることはなさそうです
造成地あるある(その1)
数日後、Jさんが現地を下見してこられました。
Jさん:「見てきましたよ。吉岡さ〜ん」
吉岡:「どうでしたか?気になった土地ありました?」
Jさん:「ありました。角地で見晴らしいいところが♡」
ということで、今度は私が早速現場を見に行くことに。
その団地は造成中ですから、まだひと区画も売れてはいません。この段階でどこが欲しいか決めておけば、希望の場所をほぼ購入できると思われます。なので、お客様の希望の土地だけを見るのではなくて、全区画をくまなく見て「自分でも建てたいと思える」1区画を探すのです。
大変手間を要する話ですが、そうしてこそ社長にプランをしてもらうための『関門』を超えることができるのです。これぞ「土地みたて」と言えます。
しかし、そのときにお客様と選んだ1区画が違っていた場合どうするのでしょう。購入されるのはお客様ですから、当然どこを買うか決めるのはお客様です。でも、施主も営業マンもお互いに選択した「理由」を話し合って納得して決めてもらいます。それが「作法」でした。
↑Jさんは、この角地をご所望でしたが。。。(矢印と番号は撮影位置です)
↑①造成中にもかかわらず、できたばかりの擁壁がさっそく矢印の方向に動いているようです(汗)
↑②モルタルの隙間は1cm程度ですが、モルタル施工前から隙間が開いてきていたのかもしれません(汗)
↑③隣の擁壁とのずれも出ているように見えます(汗)
この造成地での結末はいかに。。。
最終的には別の団地を探すことになりました。この団地は西垂れの傾斜地で、角地は南西向きでした。見晴らしはいいのですが、敷地のサイズから夏の西日対策も容易ではない場所でした。何より4メートルを超える擁壁がどうも傾き始めている問題は決定的でした。また、擁壁の近くの土地は大量の土が埋め戻されていて、大掛かりな地盤改良工事も覚悟しておかなければならないことも「不安要因」としてお伝えしました。
Jさんは、この土地を相当気に入っておられた様子で、擁壁の傾き問題にはびくともせずに「その分安く購入できるということはないですか?」などと粘り腰を見せておられましたが、最終的にはあきらめることに。向かい側の尾根に墓地があって日中は常に目に入るということに気づいてなかったご様子で、その話をしたところご夫婦共にあっさり「ここは無い無い」とあっさりでした。
社長の会社では、お施主様の建設候補地の造成前や造成中の現場を下見するようにされていますか?それとも、土地取引には極力関わらないようにされています?
造成地あるある(その2)につづく