続・家づくりの玉手箱 2021.07.26

『杉の床』考(その1)

 

木材の名前の七不思議

 

大阪で住宅営業をしていた頃、標準仕様にプラチナ・ゴールド・ブロンズの3つのグレードが設定されていました。

 

そしてどのグレードの構造材・造作材共にも杉材は採用されていませんでした。当時「新人」だった私は先輩にどうしてか尋ねたことがありましたが、その際「そんな安普請の代表みたいな材料使ってたら値切られるから」というストレートなものでした。

 

当時、関西では住宅の「構造材は檜」という空気でした。予算的に厳しい場合は誰でも一見してわかる「杉」ではなく、「ベイツガ」と呼ばれる木材を使っていました。そのむかし京都あたりの武家屋敷では年輪が狭く均一な国産の「ツガ(栂)」が好まれたそうで、その流れかもしれません。たしかに「ベイツガ」の見た目は「杉」よりも「檜」に近い雰囲気がありましたが、それ以上に京都が近い関西のつくり手の中では「ツガ(栂)」という名前のもつバリュー感が受けていたのでしょう。

 

日本の木の名前は、いささか難解で注意が必要です。国産の「ツガ(栂)」と「ベイツガ」は似てはいるけど別ものです。国産の木に「コメツガ(米栂)」というのも実際にあるそうで、「ベイツガ」を漢字で書いてしまうと『国産材』に化けるという仕掛けにもなっています。木の名前は誠にややこしいです。

 

「ツガ(栂)」は国産のものは成長が遅く重硬な材ですが、輸入材である「ベイツガ」は年輪が広く軽軟な材で、明らかに別ものです。そして輸入材である「ベイツガ」は、実のところ別樹種であるモミ類の木と混合で輸入・販売されているそうです。

 

日本では樹種を混合して同じ名称で呼ぶことはあまりないように思いますが、海外では性質が似ていれば『同一製品』という考え方のようです。目の詰まりや比重・色合い・生育環境などが似通っているものは同じ名前て呼ばれるのです。

 

そういう意味では木材の名称は「樹種名」ではなく「商品名」なのです。「ベイツガ」は関東大震災以降、国産の「杉」の『代替材』として建売住宅などに多用された木材で、そういう割り切った『製品』としての木の呼び名の文化も輸入されてしまったようです。

 

↑大阪時代に買った「木材の虎の巻」に載っていた「ツガ(栂)」と「ベイツガ」の写真(違いがわかりません💦)

 

2×4工法でよく使用されホームセンターでもおなじみのSPF材は、樹木の名前ではなくトウヒ属のスプルース(SPRUCE)、マツ属のパイン(PINE)、モミ属のファー(FIR)の3種類の樹種の頭文字を取った総称です。最初から『まぜこぜ』が前提なのですね。

 

↑自宅で使っているSPFの自作デスク(ひょっとしたら3枚とも違う樹種かもしれません!)

 

 

「杉の床」三大ネガティブ要素

 

前置きが長くなってしまいましたが、「杉」の話にもどります。 大阪から鹿児島に移住した頃は、「ホワイトウッド」※の集成材を使用していました。

 

※「ホワイトウッド」はマツ科トウヒ属の常緑針葉樹のことですが、「樹種名」ではなく「商品名」と解釈したほうがいいです。

 

「杉山だらけの鹿児島でも輸入材?地産地消がこれほどまでに崩壊しているとは!」と少し驚きましたが、後に鹿児島県産を中心に九州の杉を使用する流れになっていきました。自宅は、その流れで構造材も造作材もほとんど「杉」でできている家です。

 

「杉」の無垢材といえば、キズがつく・縮む・暴れる という三大ネガティブ要素が広く知られていますが、果たしてどうなのでしょうか?「杉」の木は一般に成長が早くやわらかい木です。それゆえに軽量・安価で加工がしやすい訳ですが、確かにすぐにキズが入ります。工事中の保護・養生にも気を使わされます。

 

一般に、春から夏にかけてつくられる目幅の大きな部分を「春材(しゅんざい)」または「早材(そうざい)」といいます。春材は淡色で材質がやわらかくなっています。これは、木の生長が春から夏にかけて大きく早く成長することによるものです。夏から秋の終わりにかけてできた部分を「秋材(しゅうざい)」または「晩材(ばんざい)」といいます。春材に比べて濃色で材質が堅く緻密(ちみつ)です。成長が早い木はやわらかい春材の幅が広いのでキズつきやすいのです。

 

いっぽうで、縮む・暴れるという点については無垢の木であれば大なり小なりあるはずです。しかし、最近では施工現場で無垢の木と接する機会がこれほどに激減、引渡して時間の経過した家に携わることをしない人が多くなっています。故に、プロの中にも無垢の木のネガティブな面を人から聞いた話として言っている人もいます。自ら作った家をそれっきり見ることのない「つくり手」が大勢を占めているのです。

 

↑杉はやわらかくて簡単に凹んだり傷がついたりします。(画像はオーディオ付近のCDケースの落下キズ)

 

↑反ってしまった杉板(この板は、よく反りの出る方向と反対に反っています)

 

我々住宅のつくり手はいつのまにか材料の「特性」や「それが住まい手にもたらす何か」ではなく「商品名」を選ぶだけの存在になってしまっているのかもしれません。

 

仕様書に「商品名」を書き込むその前に、それを選ぶ「理由」や「必然」に思いを巡らせてみたいものです。なぜなら、それは「社長の会社が選ばれる理由」に直結しているからに他なりません。

 

 

 

社長の会社では、住まい手の皆さんにお勧めするものがそれぞれ持つ「必然」を説明できますか?スタッフのみんなが「商品名」しか知らないといったことはないですよね?

 

 

『杉の床』考(その2) に続く。

 

 

 

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