続・家づくりの玉手箱 2021.08.02

『杉の床』考(その2)

『杉の床』考(その1) から続く。

 

19年経つとどうなるか?

 

そこで、百聞は一見に如かず。
いろいろな使い方をされた「杉」と、自宅で19年間つきあってきて目の当たりにする状況のリポート(事実)です。

 

↑元々1mm程度であった棚板のすき間が4mmに(長さ30cm少しの板なので割合だとかなり縮んでいます)

 

↑白っぽいところは直射日光が当たっているようにも見えますが、19年間日が当たらず焼けなかった部分です。水着のあとのようになまっ白く、日が当たったところは小麦色のいい色に焼けています

 

↑少しだけハゲたところ(春材のところが一部白くなっています)

 

↑かなりハゲてきたところ(このくらいがいちばん「くたびれ感」があります)

 

↑すっかりハゲきったところ(ここまでいくと、これ以上変化しません)水じみは植物の水やりのときに💦こぼしすぎです

 

いかがでしたか?すっかりハゲきってしまうと、ハゲているのかどうかもわからなくなります(笑)むしろ、春材のやわらかさが素足にとても気持ちがいいのです。足の裏で感じる秋材と春材の凹凸感もたまりません。どうやら鹿児島では桜島の降灰があり、いっそう床が削れやすようですが結果オーライです。

 

 

とはいえ、自宅が完成して引越しした時点で「杉」の床には既に多数のキズがついていました(涙)当時営業マンであった私は、引越しの片付けができたら早速お客様をご案内するお約束をしておりましたので、必死でこまめに補修・塗装をしたりしていました。(その時点ではまだ新築当初の姿を維持しようとしていたのです)

 

しかし、生活していますと補修するよりキズが増えるスピードが勝っており、すぐに断念して開きなおる流れとなりました。しかし、意外なことにご見学のお客様たちは、皆さん自宅のキズと、「放置」を決め込んでいる我々夫婦をご覧になられて安堵して帰られるのでした。お見えになるまではあれほど心配していたのに、お帰りになる頃にはキズなんかどうでも良くなってしまっているのです。

 

それは、

 

●キズがついたからといって思ったほど不具合はないこと
●実際に住んでいる人がキズなど気にせず暮らしていること
●見た目のキズより触れた感触の得難い気持ちよさに気づいたこと

 

などの事実に、目から鱗が落ちてしまったということのようです。

 

自宅で木が縮んでしまったところは、実は殆どありません。柱や梁の接合部分に縮みを確認できる箇所は一部だけあります。しかし、生活上気になるところはごく僅かで、どこも固定していない可動式の棚板ぐらいです。同様に「暴れる(反ったり捻ったりして予想外に変形する)」ような箇所も自覚するような場所は見つかりません。人が気がつきやすい床などでも感じる場所はないようです。

 

自宅は、空気式のソーラーシステム※が装備されていますので冬場の乾燥が強く、床材などの木材にはかなり過酷な環境と言えます。そういった点も考慮すると、木材の縮む・暴れるといったことは、材料になるまでの乾燥技術と施工方法で十分克服できることのようです。

 

※ソーラーシステムの詳しい内容は 夏のための、『変身』 をご覧になってみてください。

 

↑収縮して隙間があいてきている「杉」の梁の接合部分

 

↑合板の上に杉板を張った床(隙間はあいてきていないようです)

 

↑杉積層パネルあらわしの床(隙間はあいてきていないようです)

 

 

「お手入れ」という言葉の呪縛

 

「お手入れ」という言葉は、政治家・大臣の「適切な対応」と同じような使い方もできるのです。「つくり手」であるハウスメーカーや工務店が、クレームや責任を回避するべく「適切な対応」と言っているのです。「適切に「お手入れ」しないと責任持ちませんよ」という聞き慣れた、「具体的にどうすんのよ?」と聞きなおしたくなる、あのニュアンスです。

 

19年間「杉」の家で生活してきて「あれっ」と気づいたことなのですが、新しく建てられた「家」の最初の状態は『仮の姿』です。「最初の状態を維持する」と思うから変なことになるのではないかと思います。多くの方が「賃貸住宅」を経て自己所有の「家」を手に入れます。その際の賃貸住宅特有の「現状復帰」の概念が影響して「新築時がベスト」の感覚になってしまっているのかもしれません。

 

変化を経た「その後の姿」こそが永く続きますので、むしろスタンダードな状態と言えます。その『スタンダード』を理解し愛せるならば、ぜひとも選択をすべきでしょう。これは、夫婦関係にも通じるものもあるかもしれません。特別な美男や美女と一緒になられた方ほどご用心いただかないといけない問題かと思います(笑)

 

冗談はさておき、でもこれは「本質」であると思います。

 

可能な限り、原価と施工難易度を低減すること。引き渡し後の経年変化を感じにくくしてクレームに結びつかないようやっきになっている「つくり手」が増え続けているのは「事実」です。これは、度重なる法改正によって「つくり手」である事業者の責任やルールが整備され明確になってきていることも影響しています。

 

住宅やその工事施工を提供する側が契約上の完成・引渡しを目標に仕事をしていて、且つ10年20年経過した際に自社が作った家がどのようになるものかを正確に知らない以上、現状は変わりにくいものと思われます。「住み心地」軽視、「クレームリスク回避」重視の姿勢は鮮明です。どこかの国の政治のようです。

 

しかし、「世の中が進歩して成熟していくに従ってお施主様の選択肢が限られていく」というのはどうもおかしい。さまざまなツールで情報を共有しやすい環境になっていくのに「住まい手」の住み心地の「本質」を追求する「つくり手」が姿を消してしていくというのはあべこべではないのかという違和感があります。

 

19年間それほど「お手入れ」らしきことをしていない自宅ですが、室内に関しては別になにも困るようなことは起こっていません。それよりも、時間の経過による実質的に気持ちのいい住環境の成熟に、おどろきと共にこれを予見して提案してくれた「つくり手」へのリスペクトを感じています。

 

考えようによっては「その後の姿」やそれを愛する「価値観」を共有することができれば、完成時をゴールとしてしまう「つくり手」「住まい手」双方のエネルギーの使いどころが変わっていくものと思われます。他の社長がやらないだけに、やりようによってはビジネスとしても有望な方向性です。

 

百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。

 

建てるまでは「素人さん」であった「お施主様」も住み始めてしまえば、1年もすれば「体験者」となります。「体験」を通じたものは、時として「100の知識」を一瞬で凌駕します。「知識偏重」のスタッフでは到底対応できるものではありません。

 

 

 

社長の会社では、知ることができた知識を何らかの体験で確かめるようにされていますか?それを「住まい手」から教わる工夫をされていますか?

 

 

 

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